レーザーに関する 参考事例集

最終更新:2006210

 

 

ここには、私がレーザーに関する研究上経験・体験したことの中から、他の人の参考になると思われる事をランダムに掲載します。

なお、この内容はあくまで参考ですので、自己責任において利用してください。また、ご意見ご感想も大歓迎。sato@tagen.tohoku.ac.jp

 

内容

GaN半導体レーザーの静電気対策

CLARK MXR社のTi:Sレーザーの出力アップ

外部共振器型半導体レーザー

ISAスロットのパソコン

モードロックTi:Sレーザーの調整

特殊な光学部品

軸対称偏光レーザーの作製

 

 

GaN半導体レーザーの静電気対策

 GaN半導体レーザーは400nm付近で発振しますので、光メモリーなどの記録、読み出しに用いられることが期待されています。また、分光用の光源としても大きな魅力があります。He-Cdレーザーと比べると出力は低いものの価格は圧倒的に低いので、私もフォトルミの励起用に使おうとしてひとつ購入してみました。ところが、ろくに発振しないうちに破損してしまいました。原因は静電気のようです。

 私はこれまで670nm800nm付近のレーザーを使った事があるので、GaNレーザーも同じような感じで取り扱いましたが、これが命取りでした。一度アースに触れて体の電気を落としてから、レーザー素子に触れたのですが、いろいろやっているうちに、また静電気がたまってしまったようです。メーカーの話では、赤色レーザーに比べると静電気に弱いそうです。取り扱うときはリストバンドはもちろん、導電性マットなどの使用を薦めています。メーカーからLDと一緒に静電気対策のパンフレットが同封されてきますので、これを守れば良かったのですが、どうせ脅かしだろうと高をくくっていたら、しっかりLDは死んでしまいました。

 2回目はしっかりアースを取って取り扱ったので、今のところ順調に動作しています。

 なお、最初に破損したときにGaNレーザーに特有とみられる現象がありました。メーカーからも指摘がありましたが、静電気による破損の時、LD出力はゆっくりと低下するため、一見正常に見えます。が、1時間もしないうちにレーザーとしての機能を失ってLED状態になってしまいます。これは、GaNレーザーの結晶がもともと欠陥を多く含むため、瞬時にはレーザー発振停止に至らないためのようです。

 

CLARK MXR社のTi:Sレーザーの出力アップ

 Chirped Pulse Amplifierシステムとして、Ti:Sレーザーがあります。本研究室にも100fsで出力6mJのシステムが1台あります。発振器、ストレッチャー、再生増幅器、マルチパスアンプ、コンプレッサーで構成されていますが、もう少し出力が欲しいので、改造しました。出力増強のためにはアンプを入れるのが常套手段ですが、費用とスペースなどの問題から、できるだけ現在の構成を変えずに高出力化を目指しました。マルチパスアンプでのパスを4回から8回に増やす事によって、出力が2倍以上になりました。同時に出力の安定性も向上しました。ポンピング光であるYAGレーザーの出力は全く変えていません。コンプレッサー内の光学素子の反射率の低下もありますが、最終の出力は10mJ程度です。マルチパスアンプの出力ビーム径をやや大きくするなどの改造をしましたが、コンプレッサー内の光学素子はそのまま同じ物を使っています。なお、この改造は主にルーマニアのNational Institute for Lasers, Plasma and Radiation PhysicsDr. Dabuによって行われました。

 ストレッチャー内の銀ミラーの反射率が極端に低下しているので、そろそろ取り替えようと思っています。再蒸着をしてくれるところ(私のところではアサヒビール光学)に頼むと低コストで新品同様のミラーが手に入ります。ただ、アライメントの事を考えると一個ずつ取りかえるのがベストなので、全部のミラーを一度に取りかえるのは難しいのが悩みです。

 ということで、最近ミラーの再蒸着をしたところ、見違えるように反射率が上がりました。以前はやっと出力光が見えていた程度でしたが、現在はほぼ納入時の出力に戻りました。特に半円鏡の反射率の改善が効果的でした。

 

外部共振器型半導体レーザー

 半導体レーザーは温度や電流値を変えることによって波長を変えることができます。ただ、そのままではスペクトル幅が数10MHzくらいありますので、もっと幅を狭くするためには、回折格子を外部鏡として用いた外部共振器型レーザーがお薦めです。モードホップなしに広い波長領域で波長可変とするには、半導体レーザーの端面に極めて反射率の低いARコーティングをする必要があります。電源などを含めたレーザー光源は複数のメーカーから市販されていますが、100万円以上します。もし、数GHzくらいの範囲で波長が可変であれば良いような場合には、ARコーティングをしていないそのままの半導体レーザーでも十分に機能します。この時、半導体レーザー光のコリメートが大変重要です。きっちりとコリメートできれば、あとはいたって簡単で、回折格子を設置してその1次回折光をレーザーに戻してやれば終わりです。Littrow型でもLittman型でも同じです。半導体レーザーとペルチェ素子のコントローラーがあれば、かなり低コストで安定な狭帯域単一モード半導体レーザーが実現できます。

 コリメーター用のレンズは複数のメーカーから入手できますが、レンズによってレーザーの特性に差が出るようです。いくつかのレンズを試した方が良いようです。Thor Labs社のものは割とうまくいくようですが、同じメーカーでも焦点距離やレーザー波長などによって変わります。

               

ISAスロットのパソコン(この情報はやや古くなりました。悪しからず。)

 ISAカードで制御する機器のコンピュータを新しくしたい時に困ることは、最近のパソコンはPCIスロットは標準でついているのですが、ISAスロット付のパソコンはほとんど無いことです。当研究室でも分光器等の制御に使っていたパソコンのハードディスクの容量が足りなくなったので、新しいのに取り替えようとしたときに、ISAスロット付のパソコンがなかなか見つからなくて困りました。最終的にはDellから買いました。但し、カタログには載っておらず、代理店からDellに問い合わせてもらって、供給可能なことがわかりました。ほかに、プロサイド(未確認)でも売っているらしいです。また、秋葉原などで手作りに近い形で売っていることもあるそうです。仙台のOTB( http://www.otb-japan.co.jp)でもやっているらしいです

 

モードロックTi:Sレーザーの調整

 新しい型のモードロックレーザーは調整いらずでトラブルは少ないと思いますが、10年くらい前のレーザーは結構手間がかかります。特に、少しでもポンプ光の光路が変化すると、連続発振はできるけれど、モードロックが掛かりづらい、あるいはすぐにはずれてしまうことがあります。当研究室でも、いろいろと悩まされましたが、室内の温度変化を2度くらいに押さえると、結構安定に使用できるようです。当研究室のレーザーでは、ロックが外れた場合に自動的にロックを掛ける仕掛けを使っていませんが、1日くらいは全くロックは外れません。ただその前に、モードロックの掛る領域は結構狭いので、アライメントはきちんとしておく必要があります。凹面鏡の間隔とポンプ光の入射角などがポイントです。

 

特殊な光学部品

 あまり一般的ではない、あるいはオリジナルな光学部品を使用しようとするとき、入手方法に困ることがあります。幸い当研究所では、ガラス研磨・加工をしていただける技術スタッフがいらっしゃるので、大変助かっています。ただ、あまりに特殊で対応できない場合には、いろいろな会社を当たることになりますが、経験的には小さな会社が頼りになるような気がします。最近、いろいろな会社で断わられたガラス加工を、あるところで見事に作製していただきました。期待通りの研究成果も得られ、無理難題に応えてくれる会社には、大変感謝しています。話は変わりますが、金属表面を数ナノメートルの表面粗さで研磨してくれる会社もあり、なかなか頼もしい存在です。

 

軸対称偏光レーザーの製作

 軸対称偏光レーザービーム(径偏光や方位偏光)を作る方法はたくさんありますが、安定で簡便な方法は少ないと思います。私たちは"Simple is the best."の元に、複屈折性材料や偏光選択ミラーを用いた方法を提案しています。きれいなドーナツ状のビームが、とても簡単に得られます。レーザー媒質が光軸に対して円筒対称性を持っていれば、多くの場合、既存のレーザー共振器をそのまま利用できると思います。これまでにNd:YAG、Nd:YVO4, Nd:GdVO4, Ti:Sapphireで確認しています。詳細は研究室のHPを参照下さい。